第8回 神奈川MRI技術研究会



平成2028日(金)にかながわ県民センターに於いて、第8回神奈川MRI技術研究会が開催されました。参加人数は会員,賛助会員合わせて90名の参加で大盛況でした.企画1ではMR造影剤『MRCP陰性造影剤ボースデル』と『肝臓用MRI造影剤Gd-EOB-DTPA』を薬剤メーカーにご紹介いただき、企画2では横浜栄共済病院の谷一朗先生に『撮像パフォーマンスを1.5倍に高める肝MRI診断の7つの秘訣』と題しまして肝臓MRIについてご講演をいただきました。今回は、広報(北里大学医療衛生学部)の佐藤が企画1を、北里大学病院の秦博文先生に企画2の概要・感想をレポートしていただきます。


【企画1:〜MR造影剤の紹介〜】

 MRCP陰性造影剤ボースデルのご紹介 (株)協和醗酵工業

従来、MRCP造影剤と言うと『クエン酸鉄アンモニウム(フェリセルツ)』が主流でしたが、『塩化マンガン四水和物(ボースデル)』が(株)協和醗酵工業から発売され、臨床で使用され始めています。フェリセルツは粉末状のものを水に溶解して経口摂取していたのに対し、ボースデルは初めから溶液になっているため手間がかからないという利点があります。本造影剤の大きな特徴は、T2WIにおいて非常に大きな陰性造影効果を有するところにあります。本特徴を活かすことで、胆道や膵管の描出能を向上させ、さらに病変や関連部位の診断能を向上させることが可能となりました。フェリセルツを使用する場合には、濃度を調製することによりDual contrast(ある濃度の造影剤で胃十二指腸を陽性でも陰性でも描出する方法)を得る手法が臨床では行われてきました.本造影剤は基本的に陰性造影効果を期待して開発された造影剤と言うことであった.T1WIでは陽性造影効果も示すが、上記に記述したフェリセルツのような使用方法はメーカーとしては推奨していないようであった。T2WIにおける強い陰性造影効果を最大限に活かしながらも、フェリセルツのようなDual contrastが得られるような使用方法があると、ユーザーにとって非常に重宝するMRCP用経口消化管造影剤になると感じました。


 肝臓用MRI造影剤Gd-EOB-DTPAのご紹介 (株)バイエル

20081月下旬に新しい肝臓用の造影剤『Gd-EOB-DTPA』が(株)バイエルより発売されました。本造影剤はマグネビスト等と同様に血管および細胞間隙に分布して肝腫瘍の存在および質的診断に有用です。正常な機能を有する肝細胞に選択的に取り込まれ、健常な肝組織画像を強調し、肝機能をほとんど失った部位(例:のう胞・転移性肝癌・ほとんどの肝細胞癌)は強調しないため、容易に区別することが可能となります。Kupffer Imagingと呼ばれるSPIO(超常磁性体酸化鉄)と比較すると、Gd-EOB-DTPAにより正常な肝組織は陽性造影効果を有し、特に肝細胞造影時相(投与後2040分)において非常に高いコントラストを得ることが可能です。また、1回の投与で投与直後の血流評価による診断に加えて質的診断(肝腫瘍の良悪性の鑑別など)にも利用でき、肝臓MRIにとって非常に大きな期待を持てる造影剤であると感じました。

(文責:北里大学 医療衛生学部 佐藤英介)


【企画2:撮像パフォーマンスを1.5倍に高める肝MRI診断の7つの秘訣】

 演者:横浜栄共済病院 放射線科 谷 一朗先生 

今回の特別講演は横浜栄共済病院放射線科医長、谷一朗先生に肝臓MRIの臨床について、「撮像パフォーマンスを1.5倍に高める肝MRI診断の7つの秘訣−私の脳の肝臓をあなたに移植します!−」と題しご講演をしていただきました。近年、肝MRIにおいて種々の撮像法、造影剤が使用されるようになり、ますます複雑になってきた肝MRI診断について解説をしていただきました。私は肝臓MRIに関しては詳しい方ではありませんので、先生の御講演が企画された時から、非常に楽しみにしてまいりました。本文ではその内容の一部をレポートでご紹介させていただきたいと思います。
 先生はまず肝MRI診断の主たる目的は肝結節の検出と腫瘤の鑑別であることとを挙げ、特に鑑別のための撮像法を3系統に分類されました。「非造影MRIGd-DTPA Dynamic」「拡散強調画像(DWI)」「SPIO MRI」です。そして特に肝MRI診断を複雑にさせた最大の理由は「SPIO MRI」の出現であったと述べられました。また、肝腫瘤は病理学的特徴が非常に多岐にわたり、それらとMRI信号の関係を理解することが重要であり、そのことが肝MRI診断を複雑にしているもう一つの理由であると述べられました。
 続きまして各論ですが、先生は肝MRIを理解するために「7つのステップ」をご提示されました。それぞれのステップを考える際に、診断におけるピラミッドを想定し、稀な症例(非典型例)をピラミッドの頂点とし最初から頂点を求めようとせずその土台をしっかりと作っていくことが重要であると述べられました。撮像法ごとに信号強度よる鑑別のキーポイントを知ること、背景肝(LCHCVなど)により臨床的に大まかに2群に分類してから良悪性を診断していくことなど、まず肝MRI診断において基本的な事項を強調されておりました。
 さて、それぞれの診断ステップについてですが、
(1)「非造影MRIT1WIT2WIの信号強度の組み合わせのみで鑑別する」
(2)「拡散強調画像の限界と役割を認識する」
(3)「SPIOを極める」
(4)「肝腫瘤診断プロセス」
(5)「症例検討」
(6)「びまん性肝疾患に触れる」
(7)「臨床は何があるかわからない」
という7つステップについて、実際に御経験された臨床画像、診断パターンをまとめられた図表、または過去の論文を提示されながら、非常にわかりやすく解説していただきました。ステップ(1)ではMRI診断の基本であるT1WIT2WIの信号強度の組み合わせによって肝腫瘤性病変を分類され、それぞれについて解説していただきました。T1WIT2WIの信号強度は肝疾患に限らずすべてのMRI画像診断において重要な部分であり、私自身、もう一度その重要性と必要性を再認識することができました。(2)では近年盛んに研究されている拡散強調画像について、その限界と役割について解説していただきました。拡散強調画像のみでは鑑別診断に限界があること(検出には有用)、ADC値の測定の必要性(T2-shinethroughの除外)、ADC値の閾値の設定いかんでは、悪性腫瘍の除外もある程度は可能であるが、悪性腫瘍と同等なADC値を示す良性腫瘍も有り得る(Overlapの存在)ことから他の画像との総合診断が必要であること、b値の選択についての先生のお考え等について解説していただきました。先生のb値に対するお考えは、鑑別診断として用いるならば、b値は1000s/mm2程度(high-b)が望ましいという御意見でした。(3)ではSPIOを用いた診断手順について解説していただきました。具体的には、T2WIにて高信号を示す病変について、Long TE T1WIShort TE T1WI(造影前後)をKey画像として鑑別診断を進めていく具体的な過程と、加えてSPIO鑑別診断のためのフローチャートを解説していただきました。また、リゾビストを用いたDynamic Studyについて、応用編として先生の御経験を解説していただきました。造影CT検査後にMRIオーダーが発生した場合にGd-DTPA DynamicSPIO検査のどちらを選択するべきかというお話も頂きました。CT造影検査で十分な血流パターンが得られているのであれば、SPIO検査を選択する。不十分であれば、Gd-DTPA Dynamicを施行することもあるが、リゾビストによるDynamicでも可能であるかもしれないということでした。今後はGd-EOB-DTPAという肝細胞特異性造影剤(第一部参照)の出現で、先生がどのようなお考えをお持ちであるのか、気になるところです。(4)では、(1)〜(3)を踏まえた肝腫瘤診断プロセスということで、日常診断での考え方を、過去の論文をもとに、肝硬変やウイルス性肝疾患(HCVなど)、アルコール多飲者かなど被検者のバックグランドから、転移性肝癌とHCC(類似病変を含む)を悪性腫瘍の大きな2系列と設定し診断を進めていく過程について詳しく解説していただきました。こうした考え方で肝MRI診断をアプローチすることで非常にシンプルに診断を進めることができることを、具体的な症例を示しながらわかりやすく解説していただきました。(5)では(1)〜(4)までを踏まえて、Q&A形式で症例検討を行いました。私自身、(1)〜(4)のステップで先生の詳しい解説がありましたから非常にスムーズに症例を診断していくことができたと思います。(6)はびまん性肝疾患についてお話しいただきました。実際の臨床では肝腫瘤性病変に比べて頻度は少ないですが、MRIの情報が診断の一助になることもあります。先生はびまん性肝疾患を4つの型に分類され、その特徴、画像所見について解説していただきました。(7)では臨床は何があるかわからない、つまり今までのパターンにあてはまらない症例について、先生が実際に御経験された2症例について詳しく解説していただきました。臨床では通常の診断パターンにあてはまらない症例に遭遇することもあるわけですから、最後にピラミッドの頂上があることを肝に銘じておく必要を感じました。
 今回の谷一朗先生の御講演では、肝臓MRI診断の基本から応用にわたり非常にわかりやすく解説していただきました。また、プレゼンテーションの構成もすばらしく、最初から最後まで食い入るように聴講させていただくことができました。私も先生の脳の肝臓を少し移植していただけたと感じております。

 谷一朗先生、本当にすばらしいご講演をありがとうございました。

(文責:北里大学病院 秦博文)



Top Page