第14回 神奈川MRI技術研究会



 平成22年2月13日(土)に横浜市社会福祉センターに於いて,第14回神奈川MRI技術研究会が開催されました.今回は“脳腫瘍”をテーマとしたプログラム構成となっており、企画1では、東海大学大磯病院 脳神経外科 山田晋也先生に『新しいCSF Flow Imaging −Time SLIP法による脳脊髄液の描出、正常者での髄液の流れと臨床応用−』と題し、ご講演いただきました。企画2では、神経放射線診断やMRI画像処理を専門分野とされ、脳腫瘍のMR画像診断に数多く携わられている筑波大学 放射線科 増本智彦先生に『症例から学ぶ脳腫瘍のMR診断』と題してご講演いただきました。今回の内容報告は、第1部の内容を東海大学医学部付属病院の堀江先生,第2部の内容を横浜新都市脳神経外科病院の竹田先生に座長集約をいただきました.


【企画1:新しいCSF Flow Imaging −Time SLIP法による脳脊髄液の描出、正常者での髄液の流れと臨床応用−

演者:東海大学大磯病院 脳神経外科 山田 晋也 先生

 第14回神奈川MRI技術研究会の報告をさせていただきます。

企画1では、「新しいCSF Flow Imaging −Time-SLIP法による脳脊髄液の描出、正常者での髄液の流れと臨床応用」と題し、東海大学大磯病院脳神経外科の山田晋也先生にご講演頂きました。このTime-SLIP法による脳脊髄液の描出については、筆者も同大学系所属のため同僚から、また学会・機器展示等で以前より関心のある話題でしたが、実際に山田先生のお話を伺うのは私自身初めてのことであり興味津々であった。

CSFの整理メカニズムについては、3〜40年前の理論が現在もスタンダードとして教科書に使われている。現在では装置の進歩により、矛盾する点が多数指摘されてきたが、一度スタンダードになってしまった理論を覆すことは容易ではなかったそうだ。そこに、登場したTime-SLIP法によるCSF Flow Imagingの技術は間違えなくbreakthroughであり、これまでの定説を変え本来のCSFの整理メカニズムを具現化するツールであることを強調されていた。

 至るところに驚くべき動画が多数登場しそれだけでも楽しめたが、その中でも側脳室と第3脳室間を互いにCSFが入れ替わっている点、FLAIRにおける側脳室内フローアーチファクト(勿論認識するアーチファクトであったが、その発生源を提示され驚きつつ納得してしまった。)が印象に強かった。また、呼吸運動がCSFの動きにも影響することも指摘されていた。自分自身経験していたことだが、これもまた納得させられる動画であった。

 最後に、現在でもCSFの動きには不明な点があり、まだこれからであると述べられた。コントラストよく描出されるためには、TIは1500-4500 msecの範囲であり、この範囲を超えてしまうとそのコントラストは低下してしまう。また、タグパルスをCSFの流れ方向に対して垂直に向けることが必要であるが、CSFの動き自体が不明なため2次元のタグパルスでは十分といえない。これらの技術が進化すれば、その描出は向上し未知の情報が得られるとのことであった。

 以上感想レポートをまとめさせていただきました。当日は、天候不良のため参加者が少なかったことが非常に残念でした。頑張って参加された方には、とても有益な時間だったと思います。

 最後になりますが、山田先生大変すばらしいご講演誠に有難うございました。

(文責:東海大学医学部付属病院 堀江 朋彦)


【企画2:症例から学ぶ脳腫瘍のMR診断

 演者:筑波大学 放射線科 増本 智彦 先生  

 

講演冒頭では、テレビドラマを例に出されすごく入りやすい内容でお話いただきました。主な原発性脳腫瘍を病理学的、組織学的に分類すると神経膠腫(脳実質内腫瘍 約28%)、髄膜腫、下垂体腺腫、神経鞘腫(脳実質外腫瘍 50%以上)に分けられます。神経膠腫の過半数は、悪性腫瘍で5年生存率は約38%と云われている。脳実質外腫瘍の多くは良性腫瘍で5年生存率は95%以上です。まずは脳腫瘍の診断の第一歩は、脳実質内(Intra-axial)脳実質外(Extra-axial)の腫瘍かを鑑別することがポイントになることから、脳実質内外腫瘍に分けて講演されました。

 前半は、脳実質外腫瘍にウエイトを置かれ話されました。脳実質内外で判別が困難な症例の場合、3D-Heavy T2Wを追加撮像し、腫瘍と脳実質の間に脳脊髄液の存在所見(脳実質外腫瘍を示す)を確認する。またDWIでは、脳実質外腫瘍を検出するツールとして役に立つことがある。具体例では、髄膜腫、聴神経腫瘍を示されました。造影検査では、髄膜腫の3D-MRDSA(1f/3s)画像を示されvascularityを確認するのに有効で症例によっては、血管造影検査までしないことも多くなってきているとのことでした。下垂体腺種では、Dynamic studyで腫瘍と正常下垂体のコントラストがある1〜2分間のタイミングを考慮した撮影が可能であれば診断可能な画像が得られるとのことでした。神経鞘腫は、約80%は聴神経由来の腫瘍で小脳橋角部腫瘍に多いと云われています。この部位には3D-heavy T2WとしてCISS、FIESTA、T2-Driveなどをシーケンスに例を挙げCisternographyでスクリーニングする。

 後半は、脳実質内腫瘍についてご講演していただきました。脳腫瘍(発症3W)と星細胞腫のTW造影画像では、造影効果があるから腫瘍とは限らないという例を示されました。脳腫瘍では、造影効果がある時期があるので病歴など不明な場合は注意が必要となります。DWIは悪性リンパ腫、細胞密度の高い腫瘍で高信号を呈しADCが低下するので診断に役に立つことがある。造影T1W画像でring enhancementを示す脳腫瘍と脳膿瘍と鑑別するのにもDWIが有効であり、またDWIでの高信号を呈するもので、出血を含む脳腫瘍を例に挙げられて注意が必要であると述べられていました。造影FLAIRの有効な症例として癌性髄膜炎を示されていました。神経膠腫の中でも星細胞腫を取り上げられ、WHO分類からびまん性星細胞腫diffuse astrocytoma、退形成性星細胞腫anaplastic astrocytoma、膠芽腫glioblastoma 3つについてお話いただきました。星細胞系腫瘍は悪性度が高い程造影効果を示し、DWIでも高信号、ADC低下を示す程悪性度が高い傾向がある。神経膠腫は悪性度が高いほど出血成分を含む傾向が強く、悪性リンパ腫は出血成分を含むケースは少ないと云われており出血成分を検出することも役に立ちます。T2*や最近ではSWIを撮像することで診断に参考にする。Perfusion MRI(MRP)の腫瘍の診断としては、CBVは血管床を反映するので星細胞腫、膠芽腫は悪性度が高い程CBVも高い傾向があります。造影効果があるのにCBVの低い腫瘍はちょっと変わった、あるいは腫瘍ではないかもしれないことを考慮するべきだと経験的に述べられておりました。またMRSでは、限定的ではあるが、星細胞腫、膠芽腫の悪性度を推定、腫瘍の再発、放射線線維腫を鑑別、ring enhancementを示す腫瘍の鑑別を挙げられていました。ring enhancementを示す腫瘍のそれぞれの特徴的なパターンを示されました。最後の造影T1W画像と拡散テンソルを用いたTractography(DTI)重ね合わせた画像は、錐体路と腫瘍の関係を示し非常に分かりやすい画像を示されており術前検査に有効であると思いました。

 まとめでは脳腫瘍の脳実質内外をまずは判断し、造影効果の有無のみではなくMRP、MRS、DWI、DTIなどを追加することで付加価値のあるより精度の高い診断が可能であると結びました。短い時間の中、多くの症例を分かりやすくご講演いただきました増本智彦先生に深く感謝したいと思います。普段自分が行っている検査に取り入れていきたいテクニックばかりで大変勉強になりました。

(文責:横浜新都市脳神経外科病院 竹田 幸太郎)



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