第13回 神奈川MRI技術研究会



 平成2111月13日(金)に横浜市社会福祉センターに於いて,第13回神奈川MRI技術研究会が開催されました.今回は“脳虚血”をテーマとしたプログラム構成となっており、企画1では、シーメンス旭メディテック 吉村浩明様に『最新撮像法 ASLについて』と題し、perfusion MRIの一手法として注目されているASLについてご講演いただきました。企画2では、脳卒中急性期医療を実践されており、かつ脳虚血診断でご高名な荏原病院 放射線科 井田正博先生に『脳虚血超急性期の実践的なMR診断』と題してご講演いただきました。今回の内容報告は第1部の内容を横浜市立大学医学部附属病院の比佐先生,第2部の内容を聖マリアンナ医科大学病院の馬野先生に感想をレポートしていただきました.


【企画1:最新撮像法 ASLについて】

演者:シーメンス旭メディテック 吉村 浩明 先生

 非造影Perfusionとして注目されているASLArterial Spin Labeling)が、汎用アプリケーションとして装置に搭載可能となったということで、大いに興味が持たれる講演です。その内容は「ASLの概要」・「撮像シーケンスの解説」・「臨床における特徴」の3部構成となっていました。

ASLの概要」において、最初に動脈ラベル標識法の原理について簡単な解説がありました。次にASLの特徴として、DSCDynamic Susceptibility Contrast)と比べて、造影剤を使用しないこと、繰り返し撮像が可能であることが利点として、逆に撮像時間が長くなってしまうことが欠点として挙げられていました。本アプリケーションに採用されている手法は、反転パルスを広い範囲に1回だけ照射するPASLPulsed ASL)法を用いており、アルゴリズムはQ2TIPSQUIPSS U with thin-slice TI1 Periodic Saturation)であることが述べられました。

「撮像シーケンスの解説」において、ASLの原理となる関係式 『ControlTag = ΔM CBF』 が提示され、IRパルスを付加して収集を行ったTag画像とIRパルスを付加せずに収集を行ったControl画像の差分によってCBFが得られる工程が解説されました。続いてQ2TIPSのシーケンス構造について、シーケンスチャートと豊富な図を用いて時系列での説明が行われました。さらに、このシーケンスではマルチスライスのPerfusionマップが取得できることや、脳血流定量測定が可能であることにも触れられました。

 「臨床における特徴」では、まずf-MRIで使用されている3D PACEProspective Acquisition Correction)法を用いた体動補正について紹介されました。ASLである本アプリケーションでも3D PACEを使用することが可能となっており、この方法を用いた体動補正の有用性を臨床画像によって示していました。このことは、前述されたASL法の欠点を補う良いアイデアであると思いました。次に、DTIfMRIデータなどとの重ね合わせによる3D表示が提示され、血流評価とBOLD効果による機能評価との相関関係を評価することが可能であるとのことでした。そして、臨床例として脳梗塞例・造影パーフュージョンと対比した頚動脈狭窄例・1.5Tまたは3Tで撮像された小児脳卒中症例が供覧されました。

 最後のまとめとして、本アプリケーションを搭載することにより造影剤を使用せずに脳血流の定量的な測定が可能となることから、今後応用実験に留まらず臨床の場での活躍と発展が期待できると結んでいました。

 質疑応答では会場・座長から質問がありました。撮像条件や使い勝手に関する質問に対して、アプリケーションは一定の仕様用件を満たせば1.5T3Tともに搭載可能であること、スライス数が増えれば撮像時間は延長すること、解析結果は短時間で得られるとの回答がありました。また、Q2TIPSシーケンスの特徴に関する質問がありましたが、これは、スライスに流入する直前にsaturation pulseを印加してスライス直前のプロトンを飽和することで撮像面内に流入するTagControlでの縦磁化の差を作り出している、というところにあるようでした。

 今回この講演を拝聴して、研究利用とばかり考えていたASLが身近になってきたと感じました。臨床使用にあたっては、SNRや撮像時間がどの程度実用的になっているのかが気になります。超急性期脳梗塞の検査においても高い精度で利用できるようになればと期待しています。

(文責:横浜市立大学医学部附属病院院 比佐 雄久)

【企画2:脳虚血超急性期の実践的なMR診断】

 演者:荏原病院 放射線科 井田 正博 先生  

 

“脳虚血超急性期の実践的なMRI診断”と題し、荏原病院放射線科総合卒中センターの井田正博先生にご講演頂きました。明日からにでも使える、まさに実践的な講義であり大変勉強になりました。
 内容としては、まず脳梗塞のMR検査において求められているものは、動脈閉塞部位の確認や非可逆的組織障害の検出であるということを挙げられ、そのポイントとしてはできるだけ早急にMR検査を行い、“DWIにより非可逆的な虚血領域を検出する”、“潅流異常領域の診断を行う”、“両者のミスマッチ領域を知る”ということでした。検査に際しては、発生時刻や様式、神経症状、NHISS、危険因子などの事前情報を得ることで検査の質向上に繋がるというお話でした。
 脳梗塞の分類として、発生機序的には、血栓性、塞栓性、血行力学的なものがある。臨床カテゴリーによる分類としては、心原性塞栓、アテローム血栓性、ラクナ、などがあり、前3者による脳梗塞の割合は、約3割ずつを占めているそうです。それらの特徴についても詳細にご教授いただきました。

・心原性塞栓症:左房・左心耳内の血栓が飛散。突然発生であり、側副血行路を生じにくい。範囲は皮質を含む支配域であり重篤な障害となり得る。心房細動が危険因子としてある。合併症として出血性梗塞や浮腫を生じる。など

・アテローム血栓症:アテローム斑形成ののち狭窄にいたる。段階的な発生であるため側副血行路を生じやすくTIAを起こす頻度が高い。範囲は深部白質領域である。しかし内頚動脈のプラーク破綻による塞栓症を起こす場合もあり、その場合には皮質領域にも梗塞を起こし得る。など

・ラクナ梗塞:穿通枝領域の梗塞であり症状は比較的軽微である。高血圧が危険因子として挙げられる。穿通動脈起始部にアテロームが形成され閉塞を起こした場合にはBranch-Atheromatous DiseaseBAD)と呼ばれる。この場合高血圧性のラクナ梗塞に比して梗塞範囲が大きくなり、叙々に症状が増悪することがある。など

 また、大動脈解離や悪性腫瘍が脳梗塞の発生原因とも成り得るため、頭部の検査だからといって頭部だけのことを考えていてはダメだということもおっしゃられていました。脳梗塞に限らず他病変についても同様のことが言えるわけですから、検査を行うにあたっての心構えを再認識させられました。
 各撮像法と評価については下記のようなものでした。撮像プロトコールとしては下記の撮像を行った後に、FLAIRSWIで皮質枝の閉塞が疑われた場合には造影のperfusionを、椎骨動脈系の病変が疑われた場合には造影の3D GRE T1Wの撮像を行っているとのことでした。

DWI:非可逆性組織障害の評価。

FLAIRIntraarterial Signalの評価。(FLAIRにおいては超急性期より閉塞した皮質枝が高信号になり、その範囲は潅流異常域にほぼ一致する。)

SWI:塞栓子内部のデオキシヘモグロビンによるT2*短縮による塞栓子の評価、及びそれに加え位相変化が起こることによる潅流異常の評価。

T2*:塞栓子内部のデオキシヘモグロビンによるT2*短縮による塞栓子の評価、微少出血の鑑別。

T2Wflow voidを見ることで慢性閉塞の評価を行うことができる。また急性期の脳出血の評価も可能である。

TOF-MRA:脳血管の形態評価を行うが、見ているのはあくまでもTOF効果であるために所見と必ずしも一致しない場合がある。しかしウィルス輪の評価には有用である。

 以上ご講演の内容をレポートとしてまとめさせていただきました。非常に濃い内容ではありましたが、判かりやすく興味をもてる展開で時間が許せばもっとじっくりと聞いていたいと思いました。今回学び得た知識を臨床の場で生かして行きたく思います。

 最後になりますが、井田先生この度は大変すばらしいご講演まことにありがとうございました。

(文責:聖マリアンナ医科大学病院 馬野 清次)



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