第12回 神奈川MRI技術研究会



 平成21710日(金)に横浜市社会福祉センターに於いて,第12回神奈川MRI技術研究会が開催されました.企画1では,GE Healthcareの藤川先生に『NSF:現状分かっている事実』と題してNSFの現状についてご講演いただきました.企画2では,北里大学の菅先生に『MRIに学ぶ』と題して脳神経領域の編成疾患などを中心にご講演いただきました.今回の内容報告は第1部の内容を済生会若草病院の山本先生,第2部の内容を東名厚木病院の片岡先生に感想をレポートしていただきました.

【企画1:NSF:現在分かっている事実】

演者:GE Healthcare 藤川 慶太 先生

 12回神奈川MRI技術研究会の報告をさせていただきます。企画1では、GE Healthcare 藤川慶太様に『NSF:現在分かっている事実』と題し、NSFの現状についてご講演いただきました。

 NSFとは、硬化性粘液水腫に類似した1997年に初めて確認された希な後天性進行疾患で、皮膚の関与が著明であったことから、当初は腎性線維形成性皮膚障害(別名:SLCDRDP)と呼ばれていましたが、剖検例において線維化が皮膚のみならず横紋筋・心膜・心臓・腎臓などの多臓器に及ぶことが認識され、現在では全身性疾患であることが判明し、NSFNephrogenic Systemic Fibrosis:腎性全身性線維症)が好んで使用されています。全身において過剰なコラーゲンの沈着を伴い、皮膚および内臓を侵します。運動障害を招く危険性があり、皮膚の硬化やこれに伴う関節の拘縮を生じて高度障害を引き起こし、致命的な結果の一因となる可能性があるとしています。

今回は
・自発報告からどんな傾向が見られるのか?
・論文ではどんなことが言われているのか?
・基礎実験ではどんなことがわかっているのか?
と、多角的にご講演いただきました。

・自発報告からどんな傾向が見られるのか?
 FDAMed Watchの集計では、20064月の時点ではオムニスキャンで25例、20072月の時点ではオムニスキャン85例、マグネビストで21例となり、20084月の時点ではオムニスキャン279例、マグネビスト163例、プロハンス9例、マグネスコープ8例となっている。オムニスキャンによる年別の統計をみると、2005年〜2006年にかなり報告されているが、2007年にはその数は激減し、2008年以降は新たに発症した症例は無い。これは、FDA Boxed Warningで述べている通常容量、腎機能の悪い人に気をつけなさいという二点を臨床の場が周知し、徹底していった結果では無かろうかと述べられていた。2005年〜2006年にピークがあることに関しては、確定的な回答は難しいが、2004年〜2005年にかけて造影MRAのために造影剤を大量に使用していた統計があり、その12年後に多くのNSFに関する報告が行われているので、1つの可能性として考えられるとしている。また、用量が海外では2倍量投与による報告が多く、このことが多く関わっているのではないかともしている。

・論文ではどんなことが言われているのか?
 Columbia / Cornell NSFの報告による。全体ではオムニスキャンで7144人中14人、通常投与量では発症は無く、高用量では7844人中14人にNSFが認められた。また、腎機能ではeGFR 30ml/min以上では報告はなく、eGFR 30ml/min未満では4例、急性腎不全では10例であったと報告がなされている。このことにより、高用量と腎機能が低下している場合にNSFが起こっていることが論文の報告からも示されている。Systematic reviewより、ガドリニウム製剤全体と投与しなかった人の相対的な危険率の差があるのかを比較した場合、26.7%の危険率があり、オムニスキャンだけを投与した場合と投与しなかった場合で比較した結果は20%であった。このことにより、ガドリニウム製剤とNSFの関係は確実ではあるが、オムニスキャンだけであってもその他のガドリニウム製剤であっても危険率は変わらないという結果が得られている。NSFに関する論文はエビデンスレベルでは34程度であり、各々の製剤の安全性などについての解釈や評価は難しいと述べられていた。

・基礎実験ではどんなことがわかっているのか?
 ガドリニウム造影剤の安定性に関しては、どの製剤でも差はなく、安定性を元にNSFを説明するには無理がきているのではないかと述べられていた。オムニスキャンとイオン化し易い塩化ガドリニウムを投与してNSFにみられる線維化細胞の増殖がみられるかどうかの実験では、塩化ガドリニウムを投与しても線維化細胞の増殖はみられなかった。同様の実験にNSFの患者さんの血清を投与すると、線維化細胞の増殖がみられ、正常人の血清を投与した場合では線維化細胞の増殖はみられなかった。塩化ガドリニウムによる線維化細胞の増殖はみられなかったが、高用量のオムニスキャンでは線維化細胞の増殖がみられる結果が得られた。他の製剤を用いての実験でも同様の結果が得られ、高用量の投与がNSFの線維化に関与しているのではないかと述べられていた。NSFの要因の新たな仮説として、高用量のガドリニウム製剤の投与、高度の腎不全、なんらかの炎症や解っていない何らかのファクター等が線維化細胞を刺激してNSFに繋がっていくのではないかと述べられていた。

 腎機能の悪い人や透析患者には投与をしない、用量は通常容量を投与する等の注意を払うことにより、新たな発症を防ぐことができると結んでいた。

(文責:済生会若草病院 山本 邦宏)

【企画2:MRIに学ぶ】

 演者:北里大学 医学部 放射線科 菅 信一 先生  

 MRIに学ぶという演目にて、北里大学 医学部 放射線科 菅 信一 先生にご講演いただきました。今回は、主に脳神経領域と脊髄領域を中心にご講演いただきましたが、様々な症例に対応した撮像方法、その重要性・意味を分かりやすく解説していただき、実際に我々が日々行っている業務が、その技術・知識を含め、どの程度診療に役立っているのかを再確認する意味でも大変意義のある内容でした。中でも、通常の位置決めとしての矢状断のお話の中で、ルーチンとして19スライス撮像していること、その理由・意義についてお話いただきました。特に、トルコ鞍、延髄疾患、さらには上位頚髄などに有用であるということについて実際の症例を見ながらご説明いただきました。施設により違いはあるかと思いますが、一般的にルーチンとして位置決め画像は矢状断で3断面程度、本スキャンも横断面と思われます。その際、矢状断の方が分かりやすいかなと思う病変に遭遇することもあるかと思いますが、位置決め用にT1の矢状断を19スライスにて撮影していれば、そういった場面で迷うことがなくなると思います。また、矢状断の画像だけを見て左右の区別を行うことはできないと思っていたのですが、その方法なども教えていただき、すぐにでも実践できる情報として大変感銘を受けました。また、頭部ルーチン自体の撮像方法として、3方向3シーケンスのルーチン撮像方法のお話もしていただきました。矢状断のT1、横断面のT2、冠状断のFLAIRで撮像されているということでした。3方向にそれぞれ3つのシーケンスを撮像すれば、それだけ時間がかかります。かと言って、3シーケンスは欲しいし3方向でも見たいということもあると思います。そういった場合には、短い時間で必要十分な情報を取得できる組み合わせにすることで、検査を担当する技師が追加撮像に迷っている現状を払拭できるコンパクトかつ有用な撮像方法であると思いました。頭部MRIと言っても、様々な撮像シーケンスがあります。T2T1FLAIRheavy T2DWIT2*MRA等がありますが、頭部疾患別のプロトコールが31種類ほど用意されており、それぞれに対応させているということでした。頭部と言っても、脳・眼・聴器などの様々な部位があり、それぞれに疾患があり症状も様々ですが、それらの疾患の分類についても教えていただき、主な疾患別の「これは外せない」と題して特徴的な症例に対応するシーケンスをお話していただきました。

 私の所属する施設を含め、放射線科医がいないような施設で自分なりの解釈で検査を担当している技師にとっては目から鱗の情報が盛り沢山で、普段行っている頭部MRIのルーチン撮像の意味についていろいろ考えさせられる講演でした。

 菅先生、貴重なお時間を我々技師のために割いていただきありがとうございました。この講演内容を今後の我々の「仕事」に活かして頑張っていこうと思います。 

(文責:東名厚木病院 片岡 令安)



Top Page